令和3年7月世界自然遺産に登録された美しい山や海をもつ奄美大島の奄美市役所建て替えプロジェクトです。敷地は海に近く、市街地の狭小地であり、既存の市役所を利用しながらの現地建て替えが条件でした。「奄美の厳しい環境や災害に負けないこと」「島の小さなコミュニティを大切にすること」「伝統文化大島紬(おおしまつむぎ) を未来に継承すること」を心がけ、島の拠り所となる市役所を目指しました。
外装の「垂直・水平ルーバーやスクリーン」の設置により厳しい日射や台風による暴風雨から建物を守ります。狭小地であることと水害や地震にも強い市役所とするため、1階は駐車場として柱上部に免震装置を設置する「柱頭免震構造」を採用しました。高温多湿への対策としては「デシカント空調」を採用することで湿度コントロールを行い、快適な環境を実現しました。
現地を歩くと島のみんなが顔見知りであり、あちらこちらで挨拶が交わされている風景を目にします。都会にはないこのコミュニティを超高齢化社会の中でつないでいく役割を公共施設である市役所が担うことができればと感じました。まちの中心に建つ新しい市役所が島民の拠り所になればと考え、中央の吹抜空間を集いあう場所という意味をもつ「ゆらいどころ」と名付けました。市役所の真ん中がみんなの語らいの場となっています。
奄美大島には「大島紬」という織物が伝統文化として島全体に根付いています。失いつつある大島紬の伝統をこの市役所によって広めること、継承することができないかと考えました。大島紬のタテ糸やヨコ糸からつくられる様々な文様の最小構成単位である「十字絣(じゅうじがすり)」や「伝統文様」を奄美の厳しい日射や暴風時の飛来物から建物を守る「紬(つむぎ)スクリーン」やゆらいどころの「紬(つむぎ)の木格子」に取り入れ、奄美の伝統文化を新しいかたちで継承しています。
構造末吉 謙太郎
意匠岳川 裕介
意匠福田 紘史
意匠福田 紘史
左末吉 謙太郎
中央岳川 裕介
右福田 紘史
福田旧市役所も内藤建築事務所の設計でした。過去の先輩たちの思いに敬意を払いながら、新しく計画する市役所で最も大切にしたことは、奄美大島の島の人たちの「こころ」です。奄美の人たちに受け入れていただける「奄美のこころ」「奄美らしさ」についてJVの地元設計事務所と共に多くの時間を費やし考えました。
岳川旧市役所には地元出身の基(もとい)俊太郎(1924~2005年)の作である陶板壁画がありました。旧市役所の落成記念で1967年に制作されたもので、奄美大島の豊かな自然と人々の営みを細かなタッチで描いたものです。まさに奄美のこころだと感じ、新しい市役所の最も目に触れる待合スペース『ゆらいどころ』に移設しました。
福田やはり奄美の自然環境にどう対応していくかが苦労した点ですね。奄美らしさをイメージした紬スクリーンもそのうちのひとつです。伝統工芸である大島紬をモチーフに、奄美の強い日差しをやわらげ、暴風時には飛来物から建物を守る機能として市役所前面に織物のように曲面を描くデザインとしました。最終的にはアルミレーザーカットで製作しましたが、さまざまな素材や形状を検討し、あわせて奄美の暴風(最大風速70m/s)に耐える強度など様々な検討を行いました。
岳川苦労しましたが、完成後は子どもたちが紬スクリーンに興味を持ってくれたり、奄美市のイベント時には紬スクリーンにプロジェクションマッピングを投影するなど、想定外の使われ方に、驚きとともに大変感動しました。
末吉まず、奄美市初の免震構造であることです。市役所として必要な安全性を確保するとともに、1階部分を駐車場とした柱頭免震を採用することで基礎工事における掘削量の削減などにも配慮しています。駐車場上部は一部を人工地盤による広場としており、市役所2階へ直接アクセスができるとともに、市民の憩いの場としても機能しています。また、執務スペースにはP C(プレストレストコンクリート)梁を採用し、ロングスパンとすることで柱の少ない執務空間を実現しました。